Home Japan Japan — in Japanese 「アジアの盟主」を目指すJリーグの深謀遠慮 2026年のW杯をターゲットに据えた理由 – WEDGE Infinity 編集部

「アジアの盟主」を目指すJリーグの深謀遠慮 2026年のW杯をターゲットに据えた理由 – WEDGE Infinity 編集部

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設立から25年、 地域密着を理念に歩んできたJリーグが、 数年前から東南アジアを中心とした海外展開に積極的に乗り出していることをご存知だろうか。 ASEAN出身の 選手がJリーグで活躍し、 すでに経済効果も生まれている。 こうした「アジア戦略」 の 狙いや取り組みについて、 株
設立から25年、地域密着を理念に歩んできたJリーグが、数年前から東南アジアを中心とした海外展開に積極的に乗り出していることをご存知だろうか。 ASEAN出身の選手がJリーグで活躍し、すでに経済効果も生まれている。こうした「アジア戦略」の狙いや取り組みについて、株式会社Jリーグマーケティング 海外事業部の大矢丈之氏に話を伺った。
[画像をブログで見る] 今年の夏、北海道コンサドーレ札幌に加入したタイのチャナティップ選手(23)
ⓒJ. LEAGUE
「アジアに目を付け始めたのは2011年ごろです。東日本大震災があって来場者数が大きく落ち込み、このままではJリーグの成長戦略を描きづらいと危機感を抱くなか、考えたのがマーケットをアジア全体に拡大することでした」(大矢氏)
もともとアジア戦略を構想したのは前任の山下氏である。タイに赴いた山下氏は、想像以上のサッカー人気を肌で感じた。さらに、アジアでは政界や経済界の大物がサッカーに携わっていること、彼らが日本サッカーを尊敬の眼差しで見ていることも知った。
「Jリーグの仕組みを輸出することも考えましたが、現地に赴いて交流を重ねるうちに、培ってきたノウハウを無償で提供することにしました。なぜならアジア全体のサッカーを強化し、その中で日本がもっとも強い存在になることがベストだと考えたからです」(大矢氏)
株式会社Jリーグマーケティング 海外事業部の大矢丈之氏
まずはタイリーグと提携を結び、サッカー教室や指導者の派遣などの貢献事業から始めたが、日本の景気が落ち込んでいくなか、だんだんとその目的を「新たな市場の創出」にシフトさせていったと言う。
サッカーのおもな収入の柱は、「放送」「スポンサー」「チケット」「グッズ」の4つである。日本の人口はこれから減っていくので、国内だけを見ていれば市場の縮小は避けられない。そこに海外のマーケットをプラスすることで、地域活性にもつなげていくのがJリーグの狙いだ。
[画像をブログで見る] タイのチャナティップ選手
ⓒJ. LEAGUE
すでに大きな実績も上げている。今年の夏、北海道コンサドーレ札幌に加入したタイのチャナティップ選手(23)は、2年連続ASEANのMVPに輝いたスタープレイヤーだ。 Instagramのフォロワー数は190万人。 Facebook Liveで練習風景を流せば330万人が視聴する。チャナティップ選手の札幌移籍が決まった直後、Jリーグはタイ最大手の放送局True社と交渉し、Jリーグの放映権を売ることに成功した。5月に開始した放送は視聴率も良く、Jリーグのタイ語版Facebookページはすでに15万人ものフォロワーを集めている。
以前は、海外での放映権は代理店任せだった。現在も代理店を通す販売体制は変わらないが、自らも足を運び、現地の放送局と直接コミュニケーションを取るようにしている。
「タイはもともとスポーツのチャンネルが豊富で、サッカーではイギリスのプレミアリーグの人気が圧倒的です。そんな状況の中、タイの人たちにJリーグの試合を見てもらうにはどうしたらよいかと考えて思いついたのが、現地の人気選手をJリーグに移籍させることでした。自国の人気選手が海外で活躍していれば、その姿を見たいと思うはずだと考えました」(大矢氏)
東南アジアの選手がJリーグで活躍することで、放映権以外にもさまざまな経済効果が生まれる。2016年にベトナム代表のグエン コンフォン選手(22)が水戸ホーリーホックに移籍した際は、ベトナム航空が水戸ホーリーホックのスポンサーとなって観戦ツアーが組まれ、ハノイ空港―茨城空港のチャーター便まで飛ぶようになった。
[画像をブログで見る] ベトナムのグエン コンフォン選手(22)
ⓒJ. LEAGUE
しかし、東南アジアの有望選手をどのように見つけてくるのか。
「東南アジアに選手を見に行くエージェントはまだ少ないので、私たちが現地へ赴き、良い選手はいないかと聞いて回っています。ただ、ブランドの向上が目的なので、単純にサッカーが上手ければよいということでもなく、スポンサーは付いているか、どれほど人気があるかなども指標としてリストアップしていきます。そうやってリストアップされた選手を日本のチームに紹介するわけですが、いきなり移籍というわけにもいかないので、まずは1~2週間、練習に参加してもらうところから始めます。その時は、現地のメディアも招くようにしています」(大矢氏)
ヴァンフォーレ甲府が2013年にインドネシアのメッシと呼ばれるアンディック・ベルマンサ選手を招いた際は、練習の合間にブドウ狩りや富士登山に連れ出し、それを現地のメディアが大々的に報じた。現地のメディアを使ってまともに観光をPRしようと思えば莫大な広告費が必要となるが、現地のスター選手を練習に招くだけなら、20万円程度の渡航費で済む。
「発想の原点には、中田英寿選手がイタリアのペルージャに移籍した時の記憶がありました。当時、日本のメディアがペルージャと連呼したことで、あの小さな都市の日本での知名度は飛躍的に上がったんです。それはいま日本各地が取り組んでいる地域のブランド認知を広げてインバウンドにつなげる施策と同じ効果を生みます。中田選手がペルージャで活躍した当時と現在で異なるのは、SNSでの囲い込みが可能になったことです」(大矢氏)
ひとたびSNSで接点をつくれば、そこから継続的に情報を流すことができる。自国の代表選手の活躍を応援してもらいながら、日本の地方都市はASEANの人々に魅力を売り込むことで、インバウンドに繋げていくことができる。
順風満帆のように思えるJリーグのアジア戦略だが、課題はないのだろうか。
「ASEANの国々ではイギリスのプレミアリーグが圧倒的な人気を誇っていますが、最近ではブンデスリーガ(ドイツ)やラリーガ(スペイン)の知名度も上がり、競争環境はますます厳しくなっています。そうした中で、Jリーグは2026年をターゲットイヤーに据えました。2026年のW杯から、アジアの出場枠が現状の4.5枠から8.5枠に拡大されるんです。これはASEANの国々にとって、W杯出場が現実的な目標に変わることを意味します。それまでにASEAN各国代表の中心選手が、Jリーグで活躍している状態になっていればよいと考えています」(大矢氏)
[画像をブログで見る] タイのチャナティップ選手
ⓒJ. LEAGUE
かつてはW杯出場など夢のまた夢だった日本サッカーが、いまやW杯の常連国となっている。大矢氏によれば、あんなに弱かった日本が短期間でここまで強くなれたことに、東南アジアの国々は強烈な憧れとリスペクトを抱いていると言う。だからこそ日本のノウハウが求められており、それを惜しみなくシェアすることで、Jリーグはアジアの盟主になろうとしている。
2017年11月現在、ASEAN出身のJリーグ選手は4名いる。 JリーグはASEANを中心に9カ国のリーグと提携しているが、今年から提携国の選手は外国人枠ではなく、日本人と同じ扱いで出場できるようルールの改正も行った。「チャナティップ選手によって実証された経済効果をデータ化し、第二、第三のチャナティップを連れてくることが目下の目標です」と大矢氏は語る。

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