Home Japan Japan — in Japanese 余録:「粟一粒秋三界を蔵しけり」は…

余録:「粟一粒秋三界を蔵しけり」は…

84
0
SHARE

「粟(あわ)一粒秋三界を蔵しけり」 は寺田寅彦(てらだとらひこ)の 句という。 小さな粟粒も驚きに満ちた宇宙を宿している。 地球物理学者で文学者でもあった寅彦は「牛頓」 という俳号を用いた。 中国語でニュートンである▲その 寅彦の 随筆「茶碗(ちゃわん)の 湯」 が地球上の 風を解説しているの を中学時代に読んで科学者を志した人がいた。 東大で寅彦の 孫弟子にあたる地球物理学者となった竹内(たけうち)均(ひとし)である。 プレート理論による地震学を世に広めた太ぶちめがねと独特の 語り口を思い出す方もあろう▲寅彦から受けた感動を次の 世代に伝えたいと竹内が創刊し、 編集長をつとめた科学誌「Newton(ニュートン)」 だった。…
「粟(あわ)一粒秋三界を蔵しけり」は寺田寅彦(てらだとらひこ)の句という。小さな粟粒も驚きに満ちた宇宙を宿している。地球物理学者で文学者でもあった寅彦は「牛頓」という俳号を用いた。中国語でニュートンである▲その寅彦の随筆「茶碗(ちゃわん)の湯」が地球上の風を解説しているのを中学時代に読んで科学者を志した人がいた。東大で寅彦の孫弟子にあたる地球物理学者となった竹内(たけうち)均(ひとし)である。プレート理論による地震学を世に広めた太ぶちめがねと独特の語り口を思い出す方もあろう▲寅彦から受けた感動を次の世代に伝えたいと竹内が創刊し、編集長をつとめた科学誌「Newton(ニュートン)」だった。周囲に「先生のような素人では3カ月でつぶれる」といわれながら、カラフルな図版で分かりやすい一般向けの科学誌として成功を収めた▲竹内が亡くなってもう13年になる。現在同誌を発刊しているニュートンプレスの元社長が購読者から不正に出資を募った疑いで警察に逮捕されたというニュースが先日報じられた。教材開発名目の資金集めだったが、実態は大半が会社の運転資金にあてられたらしい▲そのニュートンプレスはきのう民事再生手続きの開始を申し立てた。「雑誌を存続させることが課された社会的使命と考えている」とは会社側のコメントだが、一般向け科学誌の苦境が少子化と理科離れに根ざすものならば再建の道も楽ではないといわねばならない▲「哲学も科学も寒き嚔(くさめ)哉(かな)」も牛頓である。嚔はくしゃみのこと。この世界が投げかける豊かな謎に気づかぬままの子どもも大人もますます増えていくのだろうか。ちょっと背筋がぞくっとする。

© Source: Continue reading...