第156回芥川・直木賞(日本文学振興会主催)の選考会が19日、東京・築地の料亭「新喜楽」で開かれ、芥川賞に山下澄人さん(50)の「しんせかい」(新潮7月号)が、直木賞に恩田陸さん(52)の「蜜蜂と遠雷」(幻冬舎)が選ばれた。山下さんは4回目の候補、恩田さんは6回目での受賞となった。
贈呈式は2月下旬に東京都内で開かれ、正賞の時計と副賞の賞金100万円が贈られる
山下さんは神戸市生まれ。同市立神戸商業高卒。脚本家の倉本聰さんが北海道で主宰していた演劇塾「富良野塾」の2期生。1996年から劇団「FICTION」を主宰する一方、小説「緑のさる」が2012年の野間文芸新人賞を受賞した。他の作品に「ルンタ」「鳥の会議」など。
受賞作の主人公は19歳の男。遠くにある演劇塾に入り、過酷な農作業をしながらけいこに励む2年間を描く。山下さん自身の体験が色濃く反映されており「懐かしいとか、思い出したくもないとか、そのどちらでもないから書けた」と振り返る。執筆は喫茶店に出かけたり自宅で寝そべったりしながら、主にスマホで書いたという。
主人公は淡い恋や芝居の難しさ、人間関係のあつれきを味わうが、いつも冷めてぼんやりとしている。成長や挫折とは無縁の筆致ながら、かけがえのない青春の日々が浮かび上がってくる。昨年10月に新潮社から刊行された単行本の題字は、山下さんの求めに応じて倉本さんが書いた。
恩田さんは早稲田大卒業後、会社勤めの傍ら執筆を続け、日本ファンタジーノベル大賞の最終候補になった「六番目の小夜子」で1992年デビュー。吉川英治文学新人賞や本屋大賞、山本周五郎賞など受賞を重ねてきた。他の作品に「ユージニア」(日本推理作家協会賞)など。
受賞作はピアノコンクールを舞台に、参加者たちの才能と生きる姿、コンクールを通して成長するさまを描いた青春群像小説。さまざまな音楽を豊かな文章で多彩に表現するという、見事な腕力を見せつけた。【鶴谷真、内藤麻里子】