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余録:唐の李白の詩である…

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唐の 李白(りはく)の 詩である。 「誰(た)が家の 玉(ぎょく)笛(てき)ぞ 暗(あん)に声を飛ばす/散じて 春風に入(い)って洛(らく)城(じょう)に満つ/此夜(この よ) 曲中折(せつ)柳(りゅう)を聞く/何人(なにびと)か起こさざらん 故園の 情」 。 故園の 情は望郷の 思い、 では折柳とは何か▲唐の 昔には親しい人が旅立つ時に柳の 枝を折って輪に結んで贈った。 それにちなむ送別の 歌が「折楊(せつよう)柳(りゅう)」 である。 李白は笛の…
唐の李白(りはく)の詩である。「誰(た)が家の玉(ぎょく)笛(てき)ぞ 暗(あん)に声を飛ばす/散じて 春風に入(い)って洛(らく)城(じょう)に満つ/此夜(このよ) 曲中折(せつ)柳(りゅう)を聞く/何人(なにびと)か起こさざらん 故園の情」。故園の情は望郷の思い、では折柳とは何か▲唐の昔には親しい人が旅立つ時に柳の枝を折って輪に結んで贈った。それにちなむ送別の歌が「折楊(せつよう)柳(りゅう)」である。李白は笛の音の中にその曲を聞き、望郷の念に打たれたのだ。柳は旅立ちや別れを象徴する木だったらしい▲「わが背子(せこ)が見らむ佐保道(さほじ)の青柳を 手折(たお)りてだにも見むよしもがも」。こちらは「万葉集」、離れて暮らす思いを「あの方がいつも見ているだろう道の柳の折った枝だけでも見るすべがあればいいのに」と詠んでいる。奈良時代の道に柳が植えられていたのが分かる▲先日、鳥取市の青谷横木遺跡の古代官道「山陰道」で平安時代のものとみられる柳の街路樹跡が発見されたことが伝えられた。平安時代の前にも「万葉集」のような街路樹の記録はあるが、実際に道沿いに人為的に植えられた樹木の跡が見つかったのは全国初という▲街路樹については奈良時代の天平年間に諸国の道で両側に果樹を植えるよう太(だい)政(じょう)官符(かんぷ)が出ていた。飢饉(ききん)に備えた果樹の並木だが、人々はそれより旅の興趣を盛り上げる柳の風情を好んだのか。柳は後の時代も街路樹に用いられ、近代は「銀座の柳」が一時代を画した▲今の街路樹の御三家はイチョウ、桜、ケヤキで、柳はベスト10にもない。成長が早く、管理が面倒らしい。そう聞けば春風に輝きながら揺れる柳の新緑美がかけがえのないものに思えてくる。実利より美を好んだ古代の旅人の子孫ゆえか。

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