NECは18日、 宇宙航空研究開発機構(JAXA)の 小型ロケット「イプシロン」 3号機に搭載した初の 自社所有の 小型観測衛星「ASNARO(あすなろ)2」 の 打ち上げに成功した。 あすなろ2を使って宇宙から石
NEC は18日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小型ロケット「イプシロン」3号機に搭載した初の自社所有の小型観測衛星「ASNARO(あすなろ)2」の打ち上げに成功した。あすなろ2を使って宇宙から石油プラントや災害状況などを撮影し、中東などの外国政府や商社に販売するサービスに乗り出す。同社の宇宙衛星ビジネスは国内の官需依存だったが、世界市場に打って出る契機となる。 運用システム「グラウンドネクスター」は3次元映像で運用状況がすぐにわかる(都内の衛星運用センター) 午前6時6分、まだ薄暗い内之浦宇宙空間観測所(鹿児島県)の空にイプシロン3号機が打ち上げられた。それから約2時間の間に「あすなろ2」は予定軌道に入り、太陽電池やレーダーアンテナを展開させた。 NECの関係者は「本当に安堵した」と語った。今後8カ月、調整などを経て通常運行に入る。 あすなろ2は経済産業省の支援を受けて製造したNEC初の自社所有人工衛星。夜でも雲が覆う昼でもレーダー波を使って地表を撮影できる。9月からは撮影画像を国内外の政府や企業に発売する方針だ。人工衛星や電子機器の製造業から、衛星を使ったサービス業に参入する。 都内に衛星運用センターを新設。投入したのが新開発の地上運用システム「グラウンドネクスター」だ。衛星の現在位置や動作を3次元(3D)アニメーションで把握できる。従来は数字データなどから読み取る必要があり、理解には専門知識が必要だった。価格もオーダーメードのシステムに比べ半額。 NECは専門家や予算に乏しい新興国でも導入しやすいと見て外販を目指す。 あすなろ2も「ネクスター」と呼ばれる標準設計仕様で製造した。建機のように駆動部分を同一にしつつ、アームやショベルのような作業部分を付け替えて納期や開発製造コストを抑えた。2トン級の小型衛星は開発費を含めて通常は200億円程度かかるが、ネクスターはその5分の1の40億円程度で開発できる。 地上と宇宙の2つのネクスターがそろうと、打ち上げ費用を除く費用はオーダーメードの衛星・システムより4分の1~半減し、100億円程度にすることが可能だという。 今回の打ち上げで稼働するネクスターは2基となる。受注を目指しているベトナムの地球観測衛星でもネクスターを提案している。運用も含めて安定稼働が増えれば信頼性が高まり、受注活動に追い風となる。 NECは日本の宇宙開発計画に沿って高性能で高価な科学衛星を中心に手掛けてきた。受注額は大きいが安定的に稼げない。宇宙事業の売上高は400~500億円を推移し多くが国内向けだ。約7割が人工衛星の製造、その他を地上システムが占める。唯一輸出してきた通信機器が占める割合はそう大きくない。 近年は新興国の宇宙開発需要が高まり、欧州エアバスなどが刈り取りに躍起だ。 NECは衛星の入札機会を増やすため新興国に目を向けてきたが、価格や実績でアピールできず「入札に呼ばれないことすらあった」(同社) あすなろ2の運用が順調に進めば人工衛星からシステムまで比較的手ごろな価格でのセット輸出が可能となり、さらに運用サービス、画像販売も含めて世界で戦う武器が整う。宇宙産業は数年がかりの足の長いビジネス。新参のNECが海外で受注を獲得するためには、ひとつひとつ実績を積み上げるしかない。(宮住達朗)