レスリング女子で五輪4連覇の 伊調馨選手(34)=ALSOK=が14日、 2016年リオデジャネイロ五輪以来2年2カ月ぶりの 実戦となる全日本女子オープン選手権(静岡・ 三島市民体育館)57キロ級に出場し、 優勝した。 今年に入り、 日本協会の 栄和人・ 前強化本部長(58)からパワーハラスメントを受けていたことが
レスリング女子で五輪4連覇の伊調馨選手(34)=ALSOK=が14日、2016年リオデジャネイロ五輪以来2年2カ月ぶりの実戦となる全日本女子オープン選手権(静岡・三島市民体育館)57キロ級に出場し、優勝した。今年に入り、日本協会の栄和人・前強化本部長(58)からパワーハラスメントを受けていたことが発覚。ブランクも騒動も乗り越え、男女通じて個人種目世界初の五輪5連覇が懸かる20年東京五輪へ再スタートを切った。
問題以降、公の場に姿を現さなかった伊調選手が髪を短くしマットに戻ってきた。筋骨隆々とした往時に比べれば、やや細身に映ったが、目に宿る闘志に衰えはない。1回戦は開始38秒でポイント10点差以上をつけるテクニカルフォール勝ち。準決勝、決勝はいずれも相手の両肩をマットにつけるフォール勝ちを収めた。「優勝できてホッとしている部分もあれば、課題もある」。慢心しない辛口の自己評価も健在だった。
リオ五輪では、女子レスリング界を共にけん引してきた女子53キロ級の吉田沙保里選手(36)=至学館大職=が決勝で敗れる中、自身は母トシさん(享年65)の突然の死のショックも乗り越え、女子個人種目で世界初となる4連覇を達成。五輪後には国民栄誉賞を受賞した。
その後は休養に入っていたが、今年になって栄氏によるパワハラ問題が表面化し、自ら被害者として渦中に置かれ、高校時代から師事した栄氏は強化本部長辞任に追い込まれた。当時の胸中を伊調選手は「周りの人に迷惑というか、心配をかけて苦しい時間だった。レスリングをすることへの葛藤もあった。でも最終的に自分が本当にはりたいのはレスリング。苦しい、やりたい、苦しい、やりたい、の繰り返しだった」と明かした。ただ、それでも「レスリングがやりたい」という素直な気持ちが、自身を再びマットに向かわせた。
04年アテネ、08年北京両五輪の48キロ級銀メダリストで姉の千春さん(37)や、出身地の青森県八戸市のジュニア、中学時代の恩師・沢内和興さん(72)も応援に駆け付けた。沢内さんは復活を見届け「ここから上げていってほしいね」と穏やかな笑みを浮かべた。
この優勝で、上位2人に与えられる12月の全日本選手権(東京・駒沢体育館)への出場権を獲得した。トップ選手が集まる全日本選手権を制すれば、再び国際舞台への道が開け、その先に東京五輪も見えてくる。
五輪までの道のりの険しさを知るだけに、「そこまで気持ちを作れていない部分もある。五輪へは覚悟が必要」と言葉を選んだ。その上で「100%の環境を整えつつ(状態が)上がってきたと思えるなら、見えてくると思う」と続けた。
日本協会は11月の代表強化合宿に伊調選手を招集する意向を示した。女王へ、復活の日は確実に近づいている。【倉沢仁志】