地震に襲われた北海道の ほぼ全域が一時停電した。 最大の 火力発電所がダメージを受けて需給の バランスが崩れ、 ドミノ倒しの ように発電所が止まった。 完全復旧までは1週間以上かかる見通しだ。 「極めてレアなケー…
地震に襲われた北海道のほぼ全域が一時停電した。最大の火力発電所がダメージを受けて需給のバランスが崩れ、ドミノ倒しのように発電所が止まった。完全復旧までは1週間以上かかる見通しだ。
「極めてレアなケース。すべての電源が落ちるリスクは低いとみていた」
6日午後、札幌市の北海道電力本店。停電で薄暗い1階ロビーに設けられた会見場で、真弓明彦社長は、こわばった表情で話した。
今回の停電は、離島などを除く北海道のほぼ全域で発生した。電気事業連合会によると、大手電力会社のほぼ全域に及ぶ大規模停電は初めてだ。
今回の停電の発端となった苫東厚真火力発電所(北海道厚真町)は、北電で最大の火力発電所であり、3基の能力は計165万キロワット。地震でとまり、北電は、この時点の供給力の半分以上を一気に失った。需給のバランスが崩れ、その影響がほかの発電所にも及んで停止。道内全域の停電に追い込まれた。
経済産業省が想定していた北海道での発電設備トラブルによる供給力減少は129万キロワット。「(165万キロワットは)想定外だった」と担当者も話す。
電気はためることができないため、必要な分だけを発電所で出力を細かく調整しながら供給する。そのバランスをみるための指標が「周波数」だ。発電機の回転速度にあたる。
電気の供給が増えると周波数は高くなり、需要が増えると周波数は低くなる。北海道を含む東日本では周波数を常に50ヘルツになるように制御している。
しかし、需要と供給のバランスが急激に崩れて周波数が乱れると、タービンの故障やシステムの異常が起こりやすくなる。これを避けるため、電力の供給を自動的に遮断する仕組みが元々備わっている。
大阪電気通信大の伊与田功教授(電力系統工学)は「北海道各地で電気の遮断がドミノ倒しのようにいっせいに起き、すべての発電機が電気系統から離れて広域で停電する『ブラックアウト(全系崩壊)』が起きた」と話す。
今後は、とめていた水力発電を動かし、そこでつくった電気を使って火力発電などを順次、稼働させていく。ただ、十分な供給力を確保するには、ボイラーやタービンを損傷した苫東厚真火力の復旧が欠かせず、1週間以上かかるという。
今回の大停電は「想定外」とは言い切れない。
2011年の東日本大震災では、東京電力福島第一原発など多くの原発が止まり、首都圏では計画停電が実施された。一カ所に多くの発電設備を置く「集中立地」のリスクへの対応は、震災の教訓の一つだった。
北海道での大停電が、暖房などで電力がより必要な冬に起きていたら、被害はさらに大きくなった可能性がある。
電力会社間の電力の融通にも課題が残った。
北海道と本州の間には電力をやりとりできる「北本連系線」があり、頼みの綱のはずだった。
距離が長くても送電が安定するよう直流を採用しているため、北電が本州から電力を受け取るには、北海道側で受け取った直流から通常の交流に変換しなければならない。変換の装置を動かすために交流の電気が必要だが、停電のために調達できず、すぐに使えなかった。
しかも、連系線の能力は最大60万キロワット。苫東厚真火力の発電能力の2分の1に及ばない。北電は外部電源がいらない新しい連系線を本州との間に建設しているが、今回の事態には間に合わなかった。
大阪府立大の石亀篤司教授(電力システム工学)は「本州から受け取れる電力は多くなく、北海道内はほぼ独立した系統。地震の発生が(電力消費の比較的少ない)未明で発電所の多くが止まっていたため、出力のバランスを維持するのが難しかったのではないか」とみる。
同様の大規模停電が北海道以外で起きる可能性はあるのか。ほとんどの電力会社は、複数の電力会社と外部電源が必要でない連系線でつながっている。石亀さんは「可能性は低いだろう」とみる。
一方、電力のシステムに詳しい荻本和彦・東京大特任教授は「地震はどこでも起こりうるので、電源の種類や場所を分散することで停電リスクを減らすことが重要だ。だが、完璧にするのは難しいので、大規模停電が起きた際の減災対策を考えておく必要がある」と指摘する。