厳しい暑さの 続く、 西日本豪雨の 被災地、 愛媛県宇和島市吉田町地区。 時折吹く熱風が、 浸水した木造家屋から出るカビの ような臭いを土ぼこりと共に運んでくる。 セミの 鳴き声と混じり、 荒れ果てた室内を片付ける「ガタガタ」 という音が聞こえる。
厳しい暑さの続く、西日本豪雨の被災地、愛媛県宇和島市吉田町地区。時折吹く熱風が、浸水した木造家屋から出るカビのような臭いを土ぼこりと共に運んでくる。セミの鳴き声と混じり、荒れ果てた室内を片付ける「ガタガタ」という音が聞こえる。
昼時はすぐに汗が噴き出す。商店街を歩く人はほとんどいない。浸水した各店舗の前は、泥がこびりついた家具や電化製品が並ぶだけだ。地区の一部では、浄水場が土砂で埋没した影響で断水が続く。道路の端には、市が用意した生活用水のタンクや大型水槽が無数に設置されている。水をためたバケツを路上に並べている民家も多い。トイレや洗濯などに使うためだ。
自宅1階が浸水した山口広文さん(86)は当初、うがいの水も捨てずに洗面器に取っておいた。いつ水道が使えるようになるか分からず、再利用は不可欠だった。3週間続く断水で水の大切さが身に染みた。「今は何もなくていい。水が欲しい」と汗をぬぐった。
午後2時半。ぼうぜんと自宅を眺める吉良彰文さん(81)に出会った。「ぼろぼろじゃ」。浸水した1階の片付けは終わらず、家具や木材は湿ったまま。築50年を超え、妻と子、孫の6人で住んでいたこの家は思い出が詰まっている。「どうしようもない。水にやられて、断水でまた水に困っている」と肩を落とした。
日が落ちてきた。午後6時過ぎになり、がれきが残る川を夕日が照らす。自衛隊が開設した風呂に子連れの家族が集まってきた。給水所には行列ができ始めた。路上のタンクから生活用水をくみ出す人の姿も多い。夜間に使う水を確保しておくそうだ。給水所近くに住む丸山由紀子さん(67)は「正月を無事に越せるだろうか……」とつぶやいた。不安の声と共に、太陽が沈んでいった。【鳥井真平】