パプアニューギニアで開かれていたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議は1993年の 初開催以来初めて、 首脳宣言の 採択を断念した。 米国と中国が通商を巡り鋭く対決したためだ。 保護主義に…
パプアニューギニアで開かれていたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議は1993年の初開催以来初めて、首脳宣言の採択を断念した。
米国と中国が通商を巡り鋭く対決したためだ。
保護主義に対抗し、貿易自由化や経済協力で参加国の経済発展を促す―。21カ国・地域からなるAPECのこうした理念が骨抜きにされかねない事態だ。
米中の対立は国際秩序の不安定化をもたらし、新たな分断につながる恐れがある。「新冷戦」という言葉すら出現した。
主張をぶつけ合うだけでは状況は好転しまい。トランプ大統領と習近平国家主席には大局的見地に立った対話と自制を求めたい。
APEC関連会合で習氏は「保護主義と一国主義が世界経済に影を落としている」と米国をけん制した。
これに対しペンス米副大統領は「インド太平洋地域に権威主義と侵略の居場所はない」と中国の覇権主義的傾向を批判した。
両国の対立が価値観の衝突という様相を呈しているのは深刻だ。
米中は、インフラ支援をてこにアジア太平洋諸国への影響力拡大を競い合う構えを強めている。大国の綱引きが地域の分断を招く懸念が広がっている。
多国間協調を探るべきAPECの場で2国間の問題を優先させる米中は責任感を欠く。
米国がこだわったのは、世界貿易機関(WTO)の抜本改革を首脳宣言に盛り込むことだ。
中国が進出企業に技術移転を求める慣行や、国有企業への補助金の支出をWTOは抑制できていない―との考えによる。
技術移転は外資規制や行政審査を通じて半ば強制的に行われており、巨額の補助金は市場をゆがめている。中国には納得のゆく説明が求められよう。
中国を責める米国も、WTOルール違反が濃厚な一方的高関税措置を次々繰り出している。 WTO改革を口にする資格があるかは疑わしい。
しかもAPECは米国主導で運営されてきた枠組みだ。その秩序を自ら乱し、首脳会議を混迷に陥れるのは看過できない。
中国は首脳会議に先立ち、約140項目に上る対米貿易是正策のリストを米国に送った。
トランプ氏と習氏はこの動きを生かし、月末にも行われる米中首脳会談で対立緩和と歩み寄りの道を探ってもらいたい。