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言論統制との闘い続く 中国 検閲回避に市民「隠語」 人権派弁護士弾圧なお

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中国国家主席の 任期制限を撤廃し、 長期政権に道を開いた習近平国家主席(共産党総書記)。 自らへの 権力集中を進める一方、 …
中国国家主席の任期制限を撤廃し、長期政権に道を開いた習近平国家主席(共産党総書記)。自らへの権力集中を進める一方、力を入れるのが言論統制だ。中国当局による人権派弁護士への弾圧は厳しさを増し、インターネット上も党批判の書き込みがないか目を光らせる。市民は隠語などで検閲をかいくぐり、批判の声を上げ続けている。 (北京・川原田健雄)
主席任期撤廃の憲法改正案が発表される約1カ月前の1月下旬、全く異なる「憲法改正案」がネット上に公表された。北京在住の人権派弁護士、余文生氏が習指導部への「公開書簡」としてまとめた私案だ。
共産党の指導や社会主義制度の堅持をうたった憲法前文を削除し、複数候補による国家主席選挙を実施。中央軍事委員会は廃止し、行政機関による政党管理制度を導入する-。実現すれば共産党独裁体制を変える画期的な内容だが、習指導部は無視。余氏は公表翌日、警察に連行され、今も拘束されたままだ。
「国民が自由に意見を言う権利は法で認められているのに…」と余氏の支援者は訴える。確かに中国の憲法は国民の「言論の自由」を保障しているが、行政や司法も共産党の指導下にある中国では、党批判につながる言論はご法度だ。
ネット規制も厳しい。中国当局は民主化運動など「有害」とみなすサイトを自動的に閲覧できなくするシステムを1990年代から構築。グーグル、ツイッター、ユーチューブなど、当局に不都合な情報が掲載される海外のサイトは軒並み遮断し、党批判につながる書き込みも削除している。
微信、微博、百度など国民の大半が利用する通信アプリや検索サイトの運営会社に対しても、自主検閲を要求。各社は「敏感詞」と呼ばれる当局指定の検閲対象語を含む文章を自動的に削除するシステムを導入した。敏感詞は1万を超えるとされ、大量の審査員を雇ってチェック漏れがないか人の目でも点検する。
主席任期撤廃の憲法改正案が発表された2月下旬、ネット上では「個人崇拝はいらない、終身制もいらない」「(北朝鮮の)平壌みたいだ」といった批判の書き込みが相次いだが、すぐに削除された。「私は反対」「独裁者」という言葉のほか、歴史の逆行を意味する「倒車(バック走行)」も検索できなくなった。
それでも、交流サイトには、皮肉を込めて実際に車をバックさせる動画が大量に投稿された。「大中華皇国の偉大な復興だ」という“ほめ殺し”の書き込みも相次ぎ、あの手この手で批判の表明が続いた。

中国ではこれまでも検閲を回避する手法が次々と生み出されてきた。その一つが隠語だ。民主化運動が武力鎮圧された1989年の天安門事件は発生日の6月4日から、「5月35日(5月31日+4日)」「8の2乗(=64)」と表現。「デモ」は「散歩」に置き換え、習氏は容姿が似ている「くまのプーさん」と称される。
胡錦濤前国家主席が掲げた「和諧社会」から生まれた隠語は「和諧」。本来は「調和が取れる」という意味だが、「政府に都合よく調和される」という趣旨で、強制的にネットから削除されることを表す。今は規制されることもあるため、発音が同じ「河蟹」が新たな隠語となった。
「火星文」も対抗手段の一つだ。専用サイトに中国語を入力すると、発音が近い別の漢字や英語などにランダムに変換される。一見、意味をなさない「火星の文字」のようだが、中国語が読める人なら発音から意味を推測できる。主席任期撤廃の発表時も「プーさんは生き残りを懸けている」などと火星文で書かれた習氏批判の投稿が見られた。

習氏の父で、副首相を務めた故習仲勲氏は開明的な指導者だったため、習指導部が発足した当初、知識人の間では民主化への期待感もあった。しかし、習氏は2013年夏、メディア管理などの担当者を集めた全国会議で「一部の反動的な知識人がネットを利用して、党や国家を攻撃している」と述べ、批判的な言論の徹底排除を指示。統制はかつてなく厳しくなった。
中国当局は昨秋から、ネット上の書き込み利用者には実名登録を義務付け、党批判の書き込みは個人を特定できるようにした。検閲対象も不特定多数が閲覧できる書き込みだけでなく、特定利用者間のグループチャットにまで拡大。ネット企業にも自主検閲を強化するよう圧力をかけている。
こうした効果もあり、17年に当局に寄せられた違法・不適切情報の通報数は前年比7割増の5263万件を記録。当局が15~17年に閉鎖したサイトは1万3千を超え、取り消した交流サイトのアカウントも1千万近くに上った。
ある弁護士は、微信などの通信アプリで仲間と連絡を取っていたが、待ち合わせ場所に警察官が現れるようになり、使わなくなった。「通信内容が監視されているのは間違いない。今はメッセージを暗号化できる通信アプリを使っているが、いつまで大丈夫か…」と懸念を口にした。
●取材監視、現地通訳に圧力 締め付け 海外メディアも
中国当局による締め付けは海外メディアにも及ぶ。
2月に訪れた河北省張家口市のスキー場。2022年に開催される北京冬季五輪に向けた準備状況を取材していると、離れた場所からこちらの様子をうかがう男性に気付いた。ゲレンデには似つかわしくない黒っぽいジャンパー姿。スキー道具も持っていない。近くのホテルに移動すると後をつけてきた。「なぜ付いてくるのか」と尋ねても「施設を見て回っているだけだ」。男性は車で移動した先にも姿を現し、河北省を離れるまで付きまとった。
スキー場などによると、男性は地元政府の関係者。海外メディアに応対する外事弁公室(外弁)の職員が取材活動を監視していたとみられる。
中国では08年の北京五輪を機に外国人記者の取材規定が大幅に緩和された。地方取材は地元政府の許可が不要となり、原則自由な取材が可能になった。だが、実際は役人が記者に張り付き、当局に都合の悪い取材をしないか監視している。
チベット族への抑圧政策を取材するため訪れた青海省では、外弁職員が観光客のふりをしながら私に張り付いた。監視下、チベット族から本音を聞き出すのは無理だ。ホテルでも向かいの部屋に泊まり、ドアを開けっ放しにして夜中もこちらの動きを見張り続けた。
人権問題の取材で訪れた地方都市では、現地ガイドが「これ以上、あなたの希望通りに案内することはできない」と突然切り出した。前日夜、自宅に外弁職員が押し掛けてきて「なぜ日本人記者に協力しているのか」と問いただしたのだという。「記者が行きたがっている地区は外国人立ち入り禁止の場所だ。連れていけばおまえも逮捕される」「ガイドの仕事を続けたかったら、関わらない方がいい」。詰問は夜3時まで続き、眠れないまま朝を迎えたという。ガイドは「協力したいが、私も生活がある。いずれ日本に帰るあなたと違い、私はずっと中国で暮らさないといけない」と疲れた表情を浮かべた。
「百聞は一見にしかず。中国各地を歩いて発展の様子を見てください。私たちは褒め言葉が欲しいのではなく、客観的に中国を紹介してほしいのです」。昨年10月、北京の人民大会堂。共産党大会を終えて記者会見に臨んだ習近平国家主席は、自信に満ちた表情で外国人記者に呼び掛けた。
しかし実際に訪れた地方では、実態を覆い隠そうと役人が躍起になっている。習氏のあの言葉は何だったのか。地方取材のたびに、むなしさがこみ上げてくる。
=2018/04/16付 西日本新聞朝刊=

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