9日行われた日本学生対校選手権の 陸上男子100メートル決勝で、 9秒98の 日本新記録を樹立した桐生祥秀(よしひで)選手(21)=東洋大。 少年時代から抜きんでた存在…
9日行われた日本学生対校選手権の陸上男子100メートル決勝で、9秒98の日本新記録を樹立した桐生祥秀(よしひで)選手(21)=東洋大。少年時代から抜きんでた存在だったわけではなく、黙々とトレーニングを重ねて徐々に頭角を現した「努力型」だったという。中学の卒業文集に「めざせ全国制覇」と書き記すなど、強い向上心を持ち続けた桐生選手。トップ選手に上りつめ、分厚かった壁をついに打ち破った。偉業の達成に、地元の関係者たちも喜びにわいた。 俊足を生かして 滋賀県彦根市出身。小学4年で地元の少年サッカークラブに入団し、ゴールキーパーを務めた。指導した峯浩太郎さん(47)は「足元のボールさばきは今イチだったが、1対1の飛び出しのスピードはずば抜けていた」。小柄だったが当時から俊足で、ニックネームは名字と気流をかけた「ジェット桐生」だった。 中学で陸上部に 兄の影響もあり、彦根市立南中に進学すると陸上部に入部。当初は同学年にもっと速い部員がいたが、市内の公園にある芝生の丘を上り下りするトレーニングで、短距離走に必要な推進力とスピードに乗っても力まないコツを身につけ、3年の時には100メートルで県内の中学生として初めて10秒台(10秒98)をマークした。顧問だった大橋聖一さん(56)は、「10秒台には周囲も驚いたが、一番本人がびっくりしていた」と振り返る。 一方、同級生だった峯竜也さん(22)は「普段は控えめで、あまりペラペラしゃべるタイプではなかった」と明かす。運動会のリレーでは「(桐生選手に)抜かれるのが分かっているから出たくない」と言い出す生徒もいたほどだったが、「本人はいくら騒がれても浮かれず、冷静だった」。 夢は「全国制覇」 中学の卒業文集には「一番の思い出は部活動」とつづり、1年の時は「県(大会)で決勝に行くことも難しかった」、2年時には「近畿大会で2位になった」一方、不本意だったジュニアオリンピックについて「結果はショック」と振り返った。3年で「徐々にいいタイムがでた」としながらも、高校では「悔しさを胸に練習に励む」と誓い、最後は大きな文字で「めざせ全国制覇」と締めくくった。 ついに届いた9秒台の知らせに、大橋さんは「世界選手権では(100メートル代表に)落選して悔しかっただろうし、プレッシャーはずっとあったと思う」と話し、「東京五輪までには出してほしいと期待していたので、驚きとうれしさがある。これからも自己ベストを更新し、9秒台前半を目指してほしい」とさらなる飛躍に期待した。