朝鮮戦争の 終結宣言が会談の 目玉となりそうだ
史上初めてのアメリカと北朝鮮の首脳会談が6月12日、シンガポールで開かれる。アメリカが最大の焦点としてきた北朝鮮の「非核化」問題については、具体的な進め方をめぐって双方の隔たりが埋まらず、トーンダウンしつつある。
変わって会談の「成果」として浮上してきたのが朝鮮戦争の「終結宣言」だ。会談の注目点を紹介する。
「我々は合意に署名する可能性があるし、それは最初のステップになるだろう。それはおそらく、簡単な部分だ。そのあと、難しい部分が残る」。6月7日、安倍晋三首相との会談を終えたトランプ大統領は、共同記者会見でそう 語った 。
「簡単な部分」とは、朝鮮戦争(1950~53年)の終結宣言を指すとみられる。それに対し、「難しい部分」は北朝鮮の「非核化」問題のことのようだ。
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安倍首相(奥)と共同記者会見に臨むトランプ大統領=6月7日、ワシントン
トランプ政権は当初、アメリカにとっての最大の懸案である北朝鮮の核開発について早期に解決することを目指し、会談の準備を進めてきた。
北朝鮮は金一族が支配する体制を米国など他国の脅威から守るため、朝鮮戦争の休戦直後から核開発を続けてきた。
核実験と核爆弾の運搬手段である弾道ミサイルの発射実験を繰り返し、2017年11月には、アメリカの首都ワシントンもとらえる射程1万3000キロメートルの大陸間弾道ミサイル「火星15」の発射に成功、アメリカにとって深刻な脅威となっていた。
トランプ大統領は軍事力行使の可能性をちらつかせながら、北朝鮮に核開発を放棄するよう圧力をかけ続けた。
両国の緊張は高まったが、北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長が4月、韓国の文在寅大統領と会談した際、両国の「完全な非核化」と「核なき朝鮮半島を実現する」を宣言。これを受けて、アメリカも交渉を通じて非核化を目指す方針へと転換した。
だが、非核化の方式をめぐるアメリカと北朝鮮の立場は依然、隔たりが大きい。
トランプ政権が「完全かつ検証可能、不可逆的な非核化」の実現を目指し、核弾頭を早期に国外へ搬出することなどを求めているのに対し、北朝鮮は「見返り」として制裁緩和なども進める「段階的な非核化」を要求。こう着状態が続いている。
現実的な問題もある。北朝鮮にはすでに多くの核関連施設があるほか、 核爆弾も10~20個保有 しているとされる。
アメリカが望む完全な非核化までには何年もかかる見通しだ。トランプ氏も「1回の会談では合意に達することはできないかもしれない」と 発言 するなど、早期解決は現実的ではないと思い始めているようだ。
ただ、両国にとって今回の会談は歴史的な意味合いがあり、成功をアピールしたい思惑がある。具体的な手法などは示さないまま、言葉だけで「非核化」を宣言に盛り込む可能性がある。
そうなれば、非核化の具体的な方法や行程はその後の実務者同士が協議することになるが、北朝鮮はこれまで非核化を何度も約束しては破ってきた経緯があり、アメリカは慎重姿勢を崩さないとみられる。
「難しい」非核化に代わって、会談の目玉となりそうなのが朝鮮戦争の終結宣言だ。朝鮮戦争は1953年、国連軍を代表するアメリカと北朝鮮、中国の3者によって休戦協定が結ばれたが、国際法上は今も戦争状態のままだ。
たとえ政治的メッセージの側面が強いとしても、60年以上も続く「戦争状態」の終わりを宣言することは、トランプ氏にとって自国民への強烈なアピールになる。政権の信任投票とも言える中間選挙(11月)を前に大きな成果を手にすることになる。
一方、北朝鮮にとっても終結宣言はアメリカから体制の保証を得るきっかけづくりになるほか、韓国に駐留するアメリカ軍の撤退や縮小を要求する口実に利用できる。両国にとってメリットがある終結宣言は合意文書に盛り込まれる可能性が高い。
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トランプ氏との会談場所であるシンガポールに到着し、同国のリー・シェンロン首相(右)と握手を交わす金正恩氏=6月10日、シンガポール
「安倍首相は時間をかけて、熱意を持って拉致問題について語った。その意志に従い、必ずや北朝鮮と協議するだろう」。6月7日、安倍首相との会談後に記者会見したトランプ氏はそう明かした。
北朝鮮は2014年、拉致問題の再調査を表明したものの、北朝鮮側が核・ミサイル実験を繰り返したため、16年に中止。北朝鮮はその後、拉致問題は「解決済み」との立場を取るようになっており、アメリカの働きかけがどれほどの効果があるかは不透明だ。
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安倍晋三首相(右)と面会する、北朝鮮による拉致被害者家族会の飯塚繁雄代表(右から3人目)や横田早紀江さん(同5人目)ら=3月30日、東京