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米国発 貿易摩擦が拡大 揺らぐ世界経済基盤

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米政府が1日に鉄鋼・ アルミニウムの 輸入制限を発動したことに対し、 欧州連合(EU)とカナダ、 メキシコ両政府はそろって対抗措置に打って出ることを表明した。 保護主義的な姿勢をあらわにするトランプ米大統領が、 同盟国も巻き込んだ「報復合戦」 を引き起こした形で、 世界経済の 基盤となる自由貿易体制が大きく揺らいで
米政府が1日に鉄鋼・アルミニウムの輸入制限を発動したことに対し、欧州連合(EU)とカナダ、メキシコ両政府はそろって対抗措置に打って出ることを表明した。保護主義的な姿勢をあらわにするトランプ米大統領が、同盟国も巻き込んだ「報復合戦」を引き起こした形で、世界経済の基盤となる自由貿易体制が大きく揺らいでいる。
「世界貿易にとって不幸な日になってしまった」。米国がEUへの輸入制限を発表した直後、EUのユンケル欧州委員長はこう述べ、米国への対抗措置に出ると表明した。フランスのマクロン大統領も「経済ナショナリズムは戦争を引き起こす」と、厳しい口調で米国を批判した。
米国は今年3月に鉄鋼・アルミに高関税をかける輸入制限を発動したが、EUとカナダ、メキシコは5月末まで適用を猶予していた。 EUは輸入制限発動に対抗して、鉄やアルミに加え、ウイスキーやジーンズ、オートバイなど米国の象徴的な製品に高い関税を課す方針で、20日にも発動する。1日には、米国を世界貿易機関(WTO)に提訴すると発表した。
昨年の米国のEU向け輸出は2835億ドルで、輸出総額の約18%を占める。 EUが想定する報復関税はこのうち2~3%にとどまるが、ドイツの対米黒字に強い不満を持つトランプ氏は「もし欧州が報復に来るなら欧州の車に関税を課す」と、欧州の基幹産業の自動車を持ち出し、「報復に対する報復」に出る構えを見せている。
欧州と同様に米国と安全保障上の強いつながりがあるカナダも落胆を隠せない。トルドー首相は「(アフガニスタンなどで)米国と共に戦って死亡したカナダ兵に対する侮辱だ。いつか『常識』が勝つと信じてきたが、米国の行動にその兆候はない」と不快感を表明。米国製の鉄鋼製品に25%、アルミやウイスキーなどに10%の対抗関税を課す方針で、7月1日に発動する。
メキシコは鉄鋼や豚足、リンゴなどに対抗関税をかける方針を発表。既にインドやトルコ、ロシアなども米国への対抗措置を検討している。各国の報復措置の対象は広範な品目に及び、鋼板やアルミニウム原料といった米国の製造業で広く使用される製品も多い。米経済への打撃も避けられず、「トランプ氏は自らの首を絞めることになる」(メキシコのグアハルド経済相)との声が出ている。
WTOが31日にパリで開いた非公式閣僚会合でも、保護主義に対する批判が相次いだ。世耕弘成経済産業相は「(米国の輸入制限に)皆、強い遺憾の意を述べていた」と明かす。ロス米商務長官は「交渉を続ける」と述べ、今後も各国との妥協点を探る方針だが、トランプ氏は1日、ツイッターへの投稿で「カナダは長年、米国の農業にひどい扱いをしてきた。高い貿易制限だ!」と対抗措置への不満を表明するなど、対立は深まるばかりだ。当初は、最大の対米貿易黒字を抱える中国を標的にトランプ政権がしかけた「貿易戦争」が、世界に広がるとの懸念が高まっている。【ウィスラー(カナダ西部)清水憲司、パリ三沢耕平】
トランプ米政権は、国内法を駆使して保護主義政策を推し進める姿勢を一段と鮮明にしている。特に、鉄・アルミ製品の輸入制限の根拠とする米通商拡大法232条は、自動車・同部品への適用も検討するなど、トランプ大統領が掲げる「米国第一」の通商政策の中核になりつつある。
232条の発動は「国家安全保障上の脅威」を理由としている。安全保障は、世界貿易機関(WTO)の貿易ルールの適用外となることから、トランプ政権は輸入制限の正当性を主張する。
しかし、これを認めれば各国が「食糧」や「エネルギー」の安全保障を持ち出し、次々に保護主義的な政策を繰り出す恐れがあり、「パンドラの箱を開けることになりかねない」として各国が活用を控えてきた経緯がある。専門家の間では米国の輸入制限はWTO違反との見方が強く、自動車の輸入制限の検討についても「安全保障とは関係ない」(日本政府関係者)と各国は反発を強めている。
一方、中国に対しては、知的財産権侵害や企業への技術移転の強要を問題にした米通商法301条の制裁関税を準備中だ。両国は貿易問題を巡り協議中だが、トランプ政権は発動に前向きな姿勢を見せている。
トランプ大統領の強硬姿勢は11月の議会中間選挙をにらんだアピールとみられるが、与党・共和党内からは反発の声が出ている。議会下院で通商政策を担当する歳入委員会のブレイディ委員長(共和党)は31日の声明で「(追加関税は)誤った対象を標的にしている。問題はメキシコやカナダ、欧州ではなく中国だ」と厳しく批判した。米国の鉄鋼輸入量の3割超をEUとカナダ、メキシコが占めており、制裁拡大によって関連製品が値上がりするなど米経済への負の影響も大きくなる見通しだ。【ウィスラー(カナダ西部)清水憲司】
日本も鉄・アルミの輸入制限の対象に含まれるほか、主力産業の自動車でも輸入制限が実施されれば、大きな打撃を受けることになる。同盟国に対しても手を緩めることのないトランプ政権に対し、打つ手は限られており、政府は輸入制限の解除をカードに農産品の市場開放などを迫られるのではないかと警戒感を強めている。
「いかなる貿易上の措置もWTOに整合的でなければならないことを強く申し上げた」。世耕弘成経済産業相は31日、パリで開かれた日米欧通商閣僚会合後の記者会見で、米国に懸念を伝えたことを明らかにした。
日本の鉄・アルミ製品の対米輸出は年約2000億円。米企業が代替できない製品も多く、政府は「大きな影響はない」として輸入制限に対する報復措置はとらない方針だ。一方で、自動車輸出額は約4.6兆円、自動車部品は約9000億円と、規模ははるかに大きい。政府内では「自動車への関税はあり得ない話だが、トランプ氏ならやりかねない」との懸念の声が広がっている。
政府内で警戒が高まっているのが、自動車への追加関税を猶予する代わりに、農業分野で市場開放を求めるなど保護主義的政策を交渉カードに使われることだ。また12日に予定される米朝首脳会談を前に、「トランプ政権が拉致問題で日本に協力姿勢を示す代わりに、通商面での譲歩を求める可能性もある」との見方も出ている。【安藤大介】

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