進行する高齢化や少子化による人口減に直面し、 外国人の 定住を促す政策を積極的に展開している地方都市がある。 中国山地に囲まれた、 人口が3万人を割り込む広島県安芸高田市だ。
[安芸高田市(広島県) 6日 ロイター] – 進行する高齢化や少子化による人口減に直面し、外国人の定住を促す政策を積極的に展開している地方都市がある。中国山地に囲まれた、人口が3万人を割り込む広島県安芸高田市だ。
政府は来年4月1日からの施行を目指し、出入国管理法改正案を臨時国会に提出。11月27日に衆院を通過させ外国人労働者の受け入れ拡大を目指しているが、人権団体や海外から批判の強い「技能実習制度」を残したまま新たな制度の導入を急ぐことに、野党や与党の一部からも疑問の声が出ている。
10年前から「多文化共生推進」を打ち出し、外国人の定住を促す安芸高田市で何が起きているのか。ロイターは外国人や市長、日本人の市民らにインタビューし、課題や問題点を探った。
<定住する外国人からみた安芸高田市>
谷内ルアン・ダルトラさん(31)が日系ブラジル人の父とイタリア系ブラジル人の母と一緒に広島に来たのは、彼が9歳の時だった。日本語が全くわからないまま、小学校に入り、勉強した。
16歳で働き始め、マツダの下請け工場で車の部品を作った。より良い収入を求めて移った電子部品の工場で日系ブラジル人の女性と出会い、子どもが生まれた。
しかし2008年、リーマン・ショックで「仕事が一気に減った」(ダルトラさん)。「(辞めさせないと)約束したのに、辞めさせられた。あの時が人生で一番困った」と話す。妻と子どもを一時的にブラジルに帰し、必死にどんな仕事でもやった。
その後、建設の仕事に就いたことが転機になる。「モノ作りの仕事が自分に合っていた。興味を持って、学ぶことが楽しくなった」。プレキャストという、コンクリートの資材を一つ一つ設計して作る技術を身につけ、取引先から高く評価された。
独立し2016年に株式会社を設立。今では従業員14人を抱える「株式会社ダルトラ」の社長だ。父も兄弟も、同じ会社で働く。社員は主に日系ブラジル人だが、日本人も3人いる。
会社設立に際しては、安芸高田市のNPO法人国際交流協会にサポートしてもらった。協会は、多文化共生を推進する市と連携し、外国人の生活支援を行っている。ローンで建てた郊外の大きな家は、家族の住居兼会社の事務所だ。
10歳と3歳の子どもたちは、元気に育っている。ダルトラさんは「安芸高田は、子育てするには最適なところ。周りの人は親切だし、家族を持ちたい人にはお勧めです」と話す。
東ティモール人のレオネル・ダビッド・マイヤさん(33)は、市の消防団の一員だ。国際協力機構(JICA)の仕事で同国を訪れていた奈津美さんと結婚、戦争が終わったばかりで治安の悪い母国を離れ、奈津美さんの故郷である安芸高田市に来た。軍隊で戦争を経験、身体には戦闘で受けた傷がたくさんあるという。
農業をして働くマイヤさんの故郷も農村で、安芸高田と似ているという。7歳と4歳の子どもがいる。「子どもの将来を考えたら、日本の方が良い」と話すマイヤさんは、ずっと日本に住むつもりだ。
ボランティアの消防団に入った理由は「安芸高田のために、できることをしたかった」から。町には若い人が少なく「おじいちゃんやおばあちゃんが、草刈りをしているのは危ない」と心配する。
東ティモールには、日本で働きたいと思う若者がたくさんいるという。「今は働きに来ることはできないが、制度ができてビザが取れるなら、いい人を呼んできて、ここで働かせたい。若い人がいれば町も助かる」とマイヤさんは話した。
<「これを怠ったら町がつぶれる」>
安芸高田市は、2004年3月に6つの町が合併してできた。合併時に3万3000人を超えていた人口は現在、2万8910人。65歳以上が40%近くを占める。
浜田一義市長(74)はロイターのインタビューで「この町を守っていくためには、人口のバランスが問題。誰が老人を支えて、誰が工場を支えて行くか考えた時には、外国人の手伝いがなければいけない。外国人が好きとか嫌いとかの問題じゃない。必須の形だと考えている。これを怠ったら町がつぶれてしまう」と、定住外国人の必要性を強調した。
市長は多文化共生プランについて「住む動機がカネ稼ぎだけじゃなく、ここが住みやすいから住むというためには、日本人と同じようなレベルのサービスがいると思う。例えば、いろいろな住宅の施策、これもしてあげたい。差別なしに。そういうことをやって、少しずつ定住につながればいいと思う」と説明した。
日本国際交流センター執行理事の毛受敏弘氏は、安芸高田市の取り組みは浜田市長のリーダーシップによるものだとし、「市長は日本の移民政策について率直に語っているが、これはとても勇気のいること。安芸高田は日本の先駆者だ」と評価する。
同市は3月に、移住者・定住者に魅力的な街づくりを目指す「第2次多文化共生プラン」を策定した。プラン作りにかかわった明治大学国際日本学部の山脇啓造教授によると、このプランは人口減少問題と多文化共生をリンクし、国籍や民族を問わず移住・定住を促進することを目標に掲げた全国初の試みだという。
また、山脇教授は、国が6月に示した外国人材の活用は、地方創生と多文化共生をリンクさせたものであり、安芸高田市のプランが示した方向性に合致すると指摘する。その上で「安芸高田市のような取り組みを、これから国は後押ししていくと思う」と述べた。
<新たな外国人受け入れ制度>
政府が提出した入管法改正案では、人手不足が深刻な業種で外国人労働者を受け入れるため、在留資格として「特定技能1号」と「特定技能2号」を新設。2019年度から5年間の累計で最大34万5150人の受け入れを想定している。
新設される特定技能1号では、家族の帯同は認められない。1990年代から大量に日本が受け入れた日系ブラジル人の問題を研究している武蔵大学のアンジェロ・イシ教授は、今回の法案について「本当は移民を受け入れているのに、移民政策ではないと言おうとしているカムフラージュ」だと指摘。
家族の帯同を許していないことは「(労働力の)使い捨てだということを認めているもの。非人間的、非人道的な状況」だと批判する。
安芸高田市の浜田市長は、今回の法改正案は「不十分」であり、「外国人が定住しやすいように、国の法律を変えてもらいたい」と要望する。安倍晋三政権の政策は、短期的労働力としての外国人受け入れ拡大であり定住を視野に入れていないと多くの労働専門家が指摘している。
現在の入管法では、日本人と結婚するか日系外国人などの特別な在留資格がないと外国人が定住することは難しい。
山脇教授は、安芸高田市での外国人定住プランを実現化させるあたってはこの国の制度が壁になっているとし「国が外国人労働者を定住前提で受け入れていない、というのが一番大きい」と述べた。
<技能実習生>
現在、安芸高田市には665人の外国人がいる。そのうち定住者は218人。技能実習生が400人近くを占める。国籍は中国、ベトナム、フィリピンなど。同市の人口に外国人が占める比率は2.3%と、日本全体の2%をやや上回るに過ぎない。
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