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書評:杉田弘毅著『「ポスト・グローバル時代」の地政学』

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「むき出しの パワーの 時代」 に突入した世界が、 どこへ向かうの か。
北朝鮮の核ミサイル問題、米中貿易摩擦、英国在住の元ロシア人スパイ暗殺未遂、シリア化学兵器使用疑惑、そして米英仏軍によるシリア攻撃・・・。かたや、荒唐無稽で支離滅裂な言動でメディアや国際社会を騒がせるトランプ大統領、そして、海外からの批判など物ともしない強硬な外交政策と軍事行動をいとわぬプーチンと習近平。
「地政学」と聞くとき、日本人は中国の尖閣周辺・南シナ海への海洋進出や「一帯一路」構想などを思い浮べる。だが、本書は冒頭で、プーチンのロシアを取り上げる。ロシアこそ、「怒り」と「地政学」の関連が最も鮮明に現れたケースだからであろう。
さらに、米国の低所得層の苦境を詳述した「怒りの地政学」の章は圧巻である。
著者は、93年以来、米国で通算11年間記者生活を送り、ワシントンやニューヨークだけでなく、中西部や南部、ラストベルト(さびた工業地帯)などを、幅広く取材してきた。
著者の視線は、米国のメディアが取った行動と、情報環境の政治への影響にも注がれる。
米国のエリート層にとって、庶民の白人層は生身の人間としてはイメージできず、単なる風景の一部でしかないのではないか。
本書は、むき出しのパワーゲームを追い求めるリーダーたちと、希望のない生活を送る人々の「怒り」の相互作用を考察することによって、世界のダイナミズムを生々しく捉えることに成功している。是非、多くの人が本書を手に取り、世界と日本について考えるヒントを得ていただきたいものである。
新潮社
*『「ポスト・グローバル時代」の地政学』(新潮選書、1,400円税別)
著者:杉田弘毅氏(共同通信社論説委員長。テヘラン支局長、ワシントン支局長、編集委員室長などを歴任)

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