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余録:人望の厚かった古代ローマの将軍ゲルマニクスが…

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人望の 厚かった古代ローマの 将軍ゲルマニクスが若死にしたの は叔父ティベリウス帝の 仕組んだ毒殺ではないかと疑われてきた。 直接の 下手人と目されたの はシリア総督をしていたピソという人物で、 その 罪を告発されて自殺してしまった▲ゲルマニクスの 遺体は黒い斑点が見られ、 口からは泡が出ていたという。 何よりも火葬された後に肋骨(ろっこつ)の 間に心臓が焼けずに残っていた。 毒に染まった心臓は火にも崩れないと当時の 人は信じていたの だ--以上はスエトニウスの 「ローマ皇帝伝」 が伝える話である▲毒殺が疑われてきたこちらの 事件では火葬後の…
人望の厚かった古代ローマの将軍ゲルマニクスが若死にしたのは叔父ティベリウス帝の仕組んだ毒殺ではないかと疑われてきた。直接の下手人と目されたのはシリア総督をしていたピソという人物で、その罪を告発されて自殺してしまった▲ゲルマニクスの遺体は黒い斑点が見られ、口からは泡が出ていたという。何よりも火葬された後に肋骨(ろっこつ)の間に心臓が焼けずに残っていた。毒に染まった心臓は火にも崩れないと当時の人は信じていたのだ--以上はスエトニウスの「ローマ皇帝伝」が伝える話である▲毒殺が疑われてきたこちらの事件では火葬後の心臓を調べるまでもなく、使用毒物が特定されたようだ。マレーシア警察は空港で殺害された金(キム)正(ジョン)男(ナム)氏の遺体から猛毒の神経剤VXが検出されたと発表した。国際条約で使用が禁止された化学兵器に該当する物質である▲化学兵器製造を企てたオウム真理教事件でも名を聞いたVXだが、さてそんな製造困難で取り扱いが危険な薬剤で人を殺すのはどんな連中か。何より空港の人混みで化学兵器を用いるという市民の生命などまるで眼中にない犯行からどんな組織、黒幕が思い浮かぶか▲事件の捜査をめぐりマレーシアと北朝鮮の外交関係がにわかに緊迫した。事件の鍵を握る外交官らの出頭を求める現地警察に協力するどころか逆に非難した北である。マレーシア政府が怒るのも当然で、北にとっては貴重な友好国との関係も破壊したVXの毒だった▲血統を誇る指導者の長兄の毒殺はいくら情報を統制された北でも口コミで国内に広がろう。独裁者には真に恐ろしい疑心暗鬼(ぎしんあんき)の毒も回らせるVXである。

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