米国の 離脱表明から約10カ月、 一時は崩壊寸前に追い込まれた環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)が生き残った。 11カ国の 団結を促したの は、 今会合を逃せば、 トランプ…
米国の離脱表明から約10カ月、一時は崩壊寸前に追い込まれた環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)が生き残った。11カ国の団結を促したのは、今会合を逃せば、トランプ政権の「米国第一主義」に対抗できる“防波堤”がなくなりかねないとの危機感だ。ただ、新協定が妥結しても、米国の復帰に向けた道筋は描けてはいない。 「失敗すれば妥結に向けた機運は大きく低下する」 交渉筋はダナン会合を前にこう指摘していた。 TPP11は当初から11カ国の首脳が集まるアジア太平洋経済協力会議(APEC)を目標に交渉を進めただけに、パプアニューギニアで開かれる来年のAPECまで延長すれば懸案をまとめるエネルギーが失われる。 TPPが崩壊した場合、各国はトランプ政権との2国間通商交渉で強い圧力にさらされる恐れがあった。 TPPで認めた市場開放の水準を「譲れない一線」と主張できなくなるからだ。 米国は北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉で、TPP参加国のメキシコとカナダに対し自動車関税撤廃の条件として自動車部品の5割を米国製にするよう求めるなど、保護主義的な姿勢を強めている。 トランプ政権はTPP11成立を機に2国間交渉への傾斜を一層強めそうだ。米農務省の報告書では、新協定で豚肉の対日輸出はカナダやメキシコが有利になると指摘。経済対話や自由貿易協定(FTA)交渉を通じ、日本に関税引き下げを求めるべきだと提案した。 日米は今月のトランプ氏来日に合わせ広範な経済協力を発表したが、「今回でカードを使い切った」(経済官庁幹部)との指摘もある。米側が今後、農産物や自動車でTPP以上の市場開放をごり押しすれば逆に貿易摩擦が起きかねない。 中国が覇権主義的な動きを強めるアジア太平洋地域で自由貿易の秩序を維持するには、日米が連携して透明性が高い貿易・投資ルールを拡大する必要がある。 日本はTPP各国が米国の要求を押し返すことで「2国間なら相手国を圧倒できる」というトランプ氏の目算を崩し、協定復帰を促したい思惑だ。茂木敏充経済再生担当相は9日の閣僚会合後、記者団に「米国のTPP復帰の土台ができた」と語ったが、米国第一の通商政策からの転換を促せるかが重要になる。 (ダナン 田辺裕晶)