「エルサレムの 地位はイスラエルとパレスチナの 和平交渉で決める」 としてきた従来の 中東政策を転換させた。
朝日新聞社
在イスラエル米国大使館のエルサレム移転に反対し、抗議するパレスチナの人たち=2018年5月14日午前11時44分、パレスチナ自治区ガザ地区、杉本康弘撮影
イスラエル建国から70年を迎える14日、米国は在イスラエル大使館を商都テルアビブからエルサレムに移した。トランプ米大統領がエルサレムをイスラエルの首都と宣言したことを受けて、「エルサレムの地位はイスラエルとパレスチナの和平交渉で決める」としてきた従来の中東政策を転換させた。パレスチナ側は猛反発しており、米国が主導する形での中東和平交渉は絶望的になった。
パレスチナ自治区のヨルダン川西岸地区とガザ地区では14日午前からイスラエルと米国に対する抗議デモが始まった。ガザ地区では大規模となっており、厳戒態勢を取るイスラエル軍との間で激しい衝突が続いている。ガザ保健省によると、14日午後7時(日本時間15日午前1時)現在、イスラエル軍の銃撃などで少なくとも子ども6人を含むパレスチナ人52人が死亡、2200人超が負傷した。
大使館移転に伴う記念式典では、トランプ氏がビデオ演説で「待ちに待った時だ。首都承認に続いて、歴史的、神聖な土地であるエルサレムに大使館を開く」と訴え、「計画より何年も移転を前倒しにした」と自賛。さらに「エルサレムがイスラエルの首都なのは明白な現実」としつつ、「我々の偉大な望みは平和」と述べて、今後も中東和平の実現に関与する方針を示した。
米国の歴代政権はイスラエルとパレスチナの「2国家共存」に配慮し、エルサレムの帰属は両者の交渉で決まるとして米国大使館はテルアビブに置いてきた。だが、トランプ氏は昨年12月、エルサレムをイスラエルの首都と宣言し、大使館をエルサレムに移すと表明。背景には、今年11月の米中間選挙で親イスラエルのキリスト教福音派の支持を確実にしたい思惑がある。
トランプ政権は今年2月、大使館の5月移転を発表した。経済や安全保障で米国の強い影響下にある中米グアテマラと南米パラグアイも今月、大使館をテルアビブからエルサレムに移す。
パレスチナは東エルサレムを首都とする独立国家の樹立を目指しており、「米国が仲介する中東和平交渉は拒否する」(アッバス・パレスチナ自治政府議長)と猛反発している。
15日は、70年前のイスラエル建国でパレスチナ人約70万人が難民になったことを思い起こす「ナクバ(アラビア語で大破局の意味)の日」だ。パレスチナ自治区で14日に始まった大規模抗議デモは15日まで続くとみられ、数万人規模が参加するとみられる。
ガザ地区では3月末から毎週金曜日、イスラエルによる占領反対を訴え、難民の帰還を求めるデモも行われており、これまでに40人超が死亡し、9千人以上が負傷した。
エルサレムにはユダヤ教、キリスト教、イスラム教の聖地が集まる。1947年の国連パレスチナ分割決議で国際管理下に置かれることになったが、イスラエルは48年の第1次中東戦争で西エルサレムを獲得。67年の第3次中東戦争で東エルサレムを併合し、80年にエルサレム全域を首都と宣言した。国際社会はこれを無効とする国連総会決議を採択。日本を含む多くの国々はテルアビブに大使館を置いており、「移転しない」と明言している。(エルサレム=渡辺丘、杉山正)
(朝日新聞デジタル 2018年05月15日 06時50分)