自国の 専用機は今回の ような長距離飛行の 経験がなく、 安全性への 懸念などが理由とみられる
史上初の米朝首脳会談に臨む、北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長とトランプ米大統領が10日、シンガポールに到着した。会談の2日前に首脳が現地入りするのは異例で、両政府は代表者を通して11日も会談に向けた詰めの協議を行っている。北朝鮮の核廃棄や、休戦から65年近く経った朝鮮戦争の終結などで、何らかの合意ができるかどうかが焦点。会談は12日午前に始まる予定となっている。
実務協議はシンガポール市内のホテルで、米国側からソン・キム駐フィリピン米国大使やアリソン・フッカー国家安全保障会議(NSC)朝鮮部長が、北朝鮮側からは崔善姫(チェソンヒ)外務次官、崔ガンイル北米副局長らが参加して行っている模様だ。
正恩氏は10日午後2時半(日本時間同3時半)ごろ、シンガポールのチャンギ空港に到着。乗っていたのは、旧ソ連製の専用機「チャンメ(おおたか)1号」ではなく、中国から提供された中国国際航空の大型旅客機ボーイング747だった。自国の専用機は今回のような長距離飛行の経験がなく、安全性への懸念などが理由とみられる。
正恩氏の外国訪問は今回で3カ国目。その動向に注目が集まっており、シンガポールには厳戒態勢が敷かれている。約30台の車列の前後を、さらにシンガポール警察が警護。武装警察が警備するホテルには、報道陣や観光客ら約数百人が殺到し、カメラのフラッシュを浴びながら中に入った。
正恩氏はこの日夜、シンガポール首相府でリー・シェンロン首相と会談。妹の金与正(キムヨジョン)氏、最側近とされる金英哲(キムヨンチョル)党副委員長、李洙墉(リスヨン)党副委員長らが同行した。
北朝鮮の朝鮮中央通信は11日朝、正恩氏のシンガポール訪問に関する記事を4本配信。「中国専用機」を使い、宿泊先は「セントレジス」と具体的に言及した。正恩氏の動向を、ほぼ時間差なく報じるのは異例だ。米朝首脳会談では、「変化する時代の要求に見合った新しい朝米関係を樹立し、朝鮮半島の恒久平和体制や非核化実現の問題などについて幅広く意見が交換されるだろう」とした。
トランプ大統領は正恩氏からやや遅れた10日午後8時20分ごろ、大統領専用機でシンガポールのパヤ・レバー空軍基地に着いた。参加していたカナダ・シャルルボワでの主要7カ国首脳会議(G7サミット)を途中で切り上げた。
到着後、トランプ氏は、正恩氏の宿泊先から約600メートルほど離れた高級ホテル「シャングリラ」に入った。トランプ氏は11日昼にリー・シェンロン首相と会談を行う予定だ。
北朝鮮の非核化などを話し合う12日の首脳会談は、南部セントーサ島の高級ホテル「カペラ・シンガポール」で行われる。
トランプ氏はシンガポールに向かう途中、ツイッターで、「エキサイティングな一日になる。金正恩氏は、今までほとんどやったことがないような何かをするために非常に努力するだろう。彼の国に平和と繁栄を創造する」と述べた。さらに、「この1回限りの機会が無駄にならないと感じている!」とも記した。
トランプ氏は首脳会談は複数回になると言っていたが、「1回限り」と表現し、北朝鮮側を牽制(けんせい)した。(シンガポール=武田肇、守真弓、土佐茂生)
(朝日新聞デジタル 2018年06月11日 11時34分)