富士フイルムホールディングス (HD)による米事務機器大手ゼロックスの 買収案に暗雲が漂ってきた。 米ニューヨーク州上級裁判所は27日、 ゼロックスに対して手続きの 一時停止を命じた。 買収完了に向けて、 6月中旬開催の 株主総会での 委任状争奪戦が想定…
富士フイルムホールディングス (HD)による米事務機器大手ゼロックスの買収案に暗雲が漂ってきた。米ニューヨーク州上級裁判所は27日、ゼロックスに対して手続きの一時停止を命じた。買収完了に向けて、6月中旬開催の株主総会での委任状争奪戦が想定されてきたが、新たに法廷闘争の壁も立ちはだかる。今秋を見込んでいた買収完了が遅れれば、海外戦略の見直しを迫られる。 「意外な判決に驚いている」。富士フイルムは28日、裁判所の決定にコメントした。同社は「ゼロックスとの間で独立性を保ちながら協議してきた」と強調した。 発端は2月にさかのぼる。ゼロックスの大株主であるダーウィン・ディーソン氏が、物言う株主(アクティビスト)として知られるカール・アイカーン氏とともに買収案に反対。2月に買収の差し止めを求めてゼロックスを提訴したほか、3月には新たな取締役を推薦する権利を求めて訴えを起こした。 「ゼロックスの価値を過小評価している」というのがディーソン氏らの主張だ。今回の買収の枠組みでは、富士ゼロックスが富士フイルム所有の75%を自社株買いする。富士フイルムはこの資金を元手にゼロックスに過半出資する計画。新たに資金を投じずに傘下に収める手法が2人の反発を招いている。 交渉の経緯についても「不透明だ」と不満を示す。米メディアは、ゼロックスのジェフ・ジェイコブソン最高経営責任者(CEO)が取締役会で反対意見があったにもかかわらず買収交渉を強行したと伝えた。裁判所は同CEOの判断と取締役の監視体制に不備があったと指摘したとされる。裁判所は27日、30日以内に取締役候補を選ぶようディーソン氏に求めた。 今回の決定を受け、統合を巡る交渉は法廷闘争に発展する可能性がある。米企業法務に詳しい弁護士によると、今回裁判所が下した「暫定差し止め」は、株主に不利益が生じるのを防ぐため、企業側の買収手続きを暫定的に差し止めるというもの。企業は株主が満足する買収条件に変更するか、30日以内に上訴して命令取り消しを勝ち取る必要があるという。 富士フイルムは今後、買収価格の積み増しなど一定の譲歩を迫られる可能性がある。同社はゼロックスからの申し入れに応じて買収条件などを再交渉中。ゼロックスが25億ドル(約2700億円)の特別配当を出す予定だが、アイカーン氏らは納得しておらず、配当の積み増しなど条件を変え提訴の取り下げを求めるシナリオも想定される。 富士フイルムは28日、「適切な手段をとっていく」とコメント。ゼロックスは5月3日に2018年1~3月期決算の電話会見を開く予定で、何らかの方針を示す可能性がある。 ゼロックスは6月中旬に株主総会を予定する。買収実現へ向け、委任状争奪戦を経て総会で株主の過半の同意を得ることを目指していたが、ずれ込む可能性がある。 富士フイルムは当初、18年秋にも買収を完了するとしていた。統合に際し、国内外1万人の削減と重複する拠点の統廃合を計画。22年度までに年間17億ドルの収益押上げ効果を見込む。買収が遅れれば、海外戦略の見直しも避けられない。 富士フイルムの古森重隆会長兼CEOは「統合の利点を説明すれば納得してもらえる」として、アイカーン氏らの要求には応じてこなかったが、軌道修正を迫られる見通しだ。