「女性同士子ども連れお断り」という張り紙のある居酒屋がTwitterで話題だ。「客単価が低いなら仕方ない」「こういう店があってもいい」と共感の声。一方で「法的に問題はないのか」と疑問を呈する声も上がっている
「女性同士 子ども連れお断り」
そんな張り紙のある居酒屋が、X(旧Twitter)で紹介され、注目を集めています。
投稿者によると、店は、女性グループについて「たくさん飲食しない一方で、長時間滞在する傾向がある」として、入店を断っているそうです。
この投稿には「客単価が低いなら仕方ない」「経営判断として理解できる」「こういう店があってもいい」といった共感の声が多く寄せられました。
一方で、「性別や属性を理由に一律で入店を拒むのは差別ではないのか」「法的に問題はないのか」と疑問を呈する声も上がっています。
飲食店が、性別や家族構成を理由に独自の入店ルールを設けることは、どこまで許されるのでしょうか。寺林智栄弁護士に聞きました。
●性別を理由にした排除にはリスク
──「女性同士」「子ども連れ」といった属性を理由に、飲食店が一律で入店を拒否することは、法的に問題となる可能性がありますか。
飲食店には、原則として「誰を客として受け入れるか」を決める「営業の自由」があります。
ただし、その自由は無制限ではありません。社会的に合理性を欠く差別的取扱いは、民法や各種法令の観点から違法と評価される余地があります。
まず、民法上は、合理的理由のない排除が「不法行為」(民法709条)にあたるとして違法と判断される可能性があります。実際の裁判例でも、国籍や性別など、個人の属性を理由とした一律の入店拒否については、社会通念上許容されるかどうかが厳しく検討されています。
また、性別を理由とした排除は、憲法14条の平等原則の趣旨を踏まえ、「社会的に不相当な差別」と評価されるリスクがあります。特に「女性同士は長居する」「子どもはうるさい」と一括りすることは、合理性に乏しいと判断されやすいでしょう。
さらに、自治体によっては、人種や多様性の尊重を目的とした条例が定められている場合もあり、行政から指導を受ける可能性もあります。
●経営上の理由があれば入店制限できる?
──投稿者によると「女性グループは飲食量が少ないのに長時間滞在するため」だそうですが、こうした経営上の理由があれば、性別や家族構成による入店制限は正当化されるのでしょうか。
たしかに、飲食店には、回転率や客単価を重視するなど、営業方針を決める自由があります。経営判断そのものが不当とされるわけではありません。
しかし、その判断を「女性グループ」「子ども連れ」といった属性に結びつけ、一律に排除する方法を取った場合、「手段の相当性」が問題となります。
実際には、長時間滞在するかどうか、飲食量が多いか少ないかは、個々の客によって異なります。それにもかかわらず、性別や家族構成だけで一括判断することは、合理性を欠くと評価されやすいでしょう。
また、「営業の自由」は憲法上保障される一方で、憲法14条の平等原則の趣旨や社会通念による制約を受けます。経済的効率のみを理由に、特定の属性を排除することが広く認められるとすれば、社会的に容認できない差別を助長するおそれがあります。
経営上の課題に対応するのであれば、「混雑時は滞在時間を制限する」「一定額以上の注文をお願いする」といったように、属性ではなく、行動や条件に着目したルールであれば、正当化されやすいといえます。
実際に、ある甘味処で「ひとり一品必ず注文してください」と告知しているのを私自身も見かけたことがあります。このような工夫が検討されるべきでしょう。
営業の自由は、属性による排除ではなく、合理的で中立的な手段によって行使されるべきものといえます。
●「男性同士の入店は禁止」の店舗もあるが…
──一方で、「男性同士での入店は禁止」とする店舗もあります。ナンパや女性客への声かけなどのトラブルを防ぐ目的が多いようですが、女性同士・子ども連れを断るケースと比べて、法的な評価は同じになるのでしょうか。
結論から言えば、法的な評価の枠組みは共通ですが、正当性の判断においては結論が分かれる可能性があります。
いずれの場合も、「属性による一律排除が、社会的に合理的か」「目的と手段が釣り合っているか」が判断のポイントとなります。その意味では、女性同士・子ども連れを断る場合も、男性グループを断る場合も、同じ基準で評価されます。
ただし、「男性同士不可」とする店舗については、評価が異なり得る理由もあります。多くの場合、「過去に実際にナンパや女性客への執拗な声かけが頻発した」「女性客が安心して利用できなくなった」といった、比較的具体的で切迫した被害防止を目的としているからです。
このように、他の客の安全や利用環境を守るという正当な目的があり、かつ個別対応が難しい事情があれば、一定の合理性が認められる余地はあります。
一方で、「女性は長居する」「子どもは騒ぐ」といった理由は、行動ではなく属性そのものに基づく一般化であり、被害の具体性や切迫性が乏しいと評価されやすい傾向があります。
そのため、同じ一律排除であっても、女性や子どもを理由とした入店拒否のほうが、違法性が認められるリスクは相対的に高くなります。
ただし、「男性グループ不可」が無条件に許されるわけではありません。時間制限や注意喚起など、より緩やかな手段で対応できる場合には、一律排除は行き過ぎと判断される可能性もあります。
結局のところ、属性そのものではなく、具体的な行為に着目したルール設計かどうかが、法的評価を分ける決定的なポイントになるといえるでしょう。