コインチェックとダボス、 一見何の 関連もないようだが、 実はデータを扱うデジタルビジネスに取り組む点が共通している。
1月26日、スイスで世界の政財界リーダーが集まるダボス会議が終わるころ、日本では深夜約80分に渡り、仮想通貨取引所大手のベンチャー企業コインチェックが外部からの不正アクセスにより暗号鍵を盗まれ、580億円相当の顧客預金(仮想通貨NEM)が流出したことを謝罪する記者会見を開いた。
コインチェックは、昨年からテレビCMを流し26万人に上る顧客を集める一方で、暗号鍵を複数化するマルチシグニチャ(マルチシグ)対応や不正侵入の危険性を低減するオフラインでの預金保管(コールドウォレット)をしていなかった。社長以下、80名ほどの社員の半数がエンジニアという体制でありながら、システム障害を繰り返し、セキュリティ体制が甘かったと批判されている。
コインチェックは一切の対応策は不明と述べた会見の翌1月28日には、被害者約26万人全員に、計460億円に上る返金を、自己資金で日本円で行い、補償する方針を発表した。会見では、出来高や営業収益など一切答えられず、企業姿勢や経営責任を問う声が向けられた27歳社長率いるコインチェックは、取引高が社歴5年となる2017年末時点で月間数兆円と報じられており、相応の財務力があると推察される。
❝スタートアップ企業であるコインチェックが、なぜ460億円という巨額の返金に応じることができるのか。仮想通貨に詳しい人物は、「コインチェックの取引高は、2017年末時点で月間数兆円に上ったと聞く。取引手数料だけで相当な収入があったはず。さらに同社が保有する仮想通貨の含み益もかなりの金額になっていたのではないか」と予想する。❞
引用: 2018/01/28 ITpro 「 仮想通貨流出問題、コインチェックが自己資金での返金を決定 」岡部 一詩=日経FinTech
上述のダボス会議では、インターネット上の閲覧や買い物の履歴など、消費行動や経済財政施策の分析の基礎となるデータを独占する米国IT企業が批判の対象となった。こうした企業の規制を強める動きがある一方で、グーグルら批判が向けられる企業は、ビジネスの制限は消費者の利益を損ない、イノベーションを阻害するという危険性を指摘した。
AIをはじめとする新しい技術により事業のデジタル化が進み、仕事に求められる技能の35%が今後2年で変わると予測されるなか、ネスレ、ノキアなど企業主導の Reskilling Revolution 「技能訓練革命」(引用:下記 日本経済新聞)に乗り出す計画が表明された。同時に、シスコ、CAなどIT企業11社による技能訓練ポータル、 SkillSET が立ち上がっている。
❝eベイのウェニグ最高経営責任者(CEO)は「すべての企業がデジタル技術に対応しなければいけない時代だが、人材が追いつかない」と発言した。❞
引用: 2018/01/27 日本経済新聞電子版 「 データ覇権巡り激論 ダボス会議閉幕 一部企業の独占 強まる批判 」 編集委員 実哲也
Towards a Reskilling Revolution
https://www.weforum.org/reports/towards-a-reskilling-revolution
2018/01/23 SkillSETプレスリリース 1 Million Workers Targeted in Tech-Reskilling Drive
コインチェックとダボス、一見何の関連もないようだが、実はデータを扱うデジタルビジネスに取り組む点が共通している。今日のあらゆる企業が、デジタルによる事業変革、デジタルトランスフォーメーションを進めようとしているが、企業によってステージが違う。一握りの巨大プラットフォーム企業はデータを独占し、デジタルトランスフォーメーションのけん引役を担う。コインチェックのようなベンチャー企業は、挑戦者として仮想通貨に代表されるプラットフォームに依存しないオープンな仕組みを取り入れ、成長しながらもセキュリティや企業体制の強化を喫緊の課題としている。そしてその他の大多数は、どういったデジタルトランスフォーメーションが実現できるかわからずに進みあぐねている、というのが日々目にする現状だ。
ここで大切なのは、ビジネスのデジタル化による失職や失敗を過度に恐れることではなく、ダボス会議のReSkilling RevolutionやSkillSETのような個々人がデジタルトランスフォーメーションに関わるための技術教育の普及、そして挑戦の文化の育成だろう。コインチェック事件の轍を踏まないよう、日本でも官民が力をあわせて、サイバーセキュリティをはじめとする安全性の強化、消費者保護、データ活用による消費者便益を促進する議論が必要ではないだろうか。
そして、ダボス会議、コインチェックからの学びをもとに、アイディアを形にすることに取り組む若い経営者がつぶされるのではなく、素早い挑戦、早期の失敗からの学びを次世代の教育につなげられる「挑戦する文化」づくりに一歩を踏み出したい。
※ COMEMO 寄稿の転載です。